摂食障害の家族相談

なぜ頭では過食をやめたいと思っても、「正しい食事」を選べないのか?

摂食障害専門カウンセリング・中村綾子です。

過食が止まらない自分のことを「意志が弱い」「だらしない」と責めていませんか?

今日は、私がカナダ留学中に心理学の先生から教わり、衝撃を受けた話をおとどけします。

これを知ると、過食症への理解が深まるはずです。

カナダの心理学講義で聞いた「バターと砂糖」の話

想像してみてください。
目の前に「バターの塊」が置いてあります。

そのまま丸ごとかじり続けられますか? おそらく、一口二口で気持ち悪くなり、体(胃)が拒絶するはずです。

では次に、**「ボウルいっぱいの砂糖」**はどうでしょう? これも、甘すぎて喉が焼けそうになり、たくさんは食べられませんよね。

私たちの体には、本来こうやって「脂質だけ」「糖質だけ」を過剰に摂ろうとすると、不快感を感じてブレーキがかかる機能が備わっています。

しかし、この二つを混ぜ合わせると、恐ろしいことが起きます。

バター(脂質)と砂糖(糖質)を混たもの。

チーズケーキ
クッキー
アイスクリーム…etc.

バターの塊は無理なのに、これなら、どんどん食べられてしまう気がしませんか?

なぜ、混ぜるとブレーキが壊れてしまうのでしょうか。

過食は「マイルド・ドラッグ」化した生存本能

脂質と糖質の組み合わせは、人間の脳にとって『マイルド・ドラッグ』と同じ

人類の歴史は、何万年もの間「飢餓(空腹)」との戦いでした。

いつ食べ物にありつけるか分からない過酷な環境で生き残るために、私たちの脳にはある「生存本能プログラム」が強力に組み込まれました。

「『脂質×糖質』という、自然界には滅多に存在しない『超・高エネルギーの組み合わせ』を見つけたら、満腹中枢を麻痺させてでも、胃袋の限界まで詰め込め!」 という命令です。

「脂質×糖質」は、最も効率よく脂肪を蓄えられる、命を守るための奇跡の燃料だったのです。

過食してしまうのは、「緊急事態」だと勘違いしている

現代のコンビニやスーパーには、この「生存本能のスイッチ」を強制的に押してしまう食べ物(菓子パン、アイス、スナック菓子)が溢れています。

食べるのが止まらないのは意志が弱いのではなく、脳が「緊急事態だ!命を守るための奇跡の食料を発見した!今すぐ蓄えろ!」と、誤ったSOSを鳴らしている状態なのです。

これを「マイルド・ドラッグ」と呼びます。
本能レベルで「食べることをやめさせない」ように設計されている食べ物なのですから。

本能の暴走を止めるには、「食」と「心」両方のケアが必要です

ここまで、過食のメカニズムは「生存本能」だとお話ししました。

同時に、私はカウンセラーとして、摂食障害は根本的に「心の病気」であると考えています。

「マイルド・ドラッグ」のような食べ物が良くないと頭ではわかっていても、どうしてもそれに手が伸びてしまう。 正しい食べ物を選べないほど、冷静な判断ができなくなってしまう。 そ

れこそが、心が悲鳴を上げている証拠なのです。

過食という行為は、生存本能の暴走であると同時に、辛すぎる現実や心の痛みから身を守るための「現実逃避」でもあります。

だからこそ、回復には2つのアプローチが必要です。

「食」の知識: 本能を刺激しない食事を知り、脳の興奮を物理的に鎮めること。

「心」のカウンセリング: そもそもなぜ、その「快楽(救い)」を必要としてしまうのか。その心の痛みに寄り添い、手当てをしていくこと。

心と身体、両方の声を聴きながら、過食症の回復をめざしていきましょう。